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第九十五話
占有席
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語り手:黒 ◆9fw1ZntG8Y
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316 :黒 ◆9fw1ZntG8Y :2006/08/12(土) 06:11:55 ID:yNwqTCvu0
占有席 1/3
学生の頃、駅前のファーストフードで試験勉強をしに行った。
そこは友達がバイトしている店で、夜は静かだから勉強しやすいと聞いていた。
一人、ずっと顔も上げず集中してる女の人がいた。
横顔がちょっとキレイだったので、なんとなくちらちらと目が行ってしまう。
けれど、何度見てもその人は下を向いて一心に何か書いてるだけだった。
トイレに立って戻るとき、妙なことに気が付いた。
その店は、椅子の席やソファタイプの席などがある。
例の女性はソファの席で、後ろは壁になっていた。
さらに席の隣には、取り囲むようにテーブルが置いてあった。
席を立って移動するには、テーブルを乗り越えるか、どかさないといけない。
よっぽど神経質で、自分のエリアを作ってしまいたかったんだろうか。
ちょっと引いた。
317 :黒 ◆9fw1ZntG8Y :2006/08/12(土) 06:13:00 ID:yNwqTCvu0
占有席 2/3
次の夜もその店に勉強しに行った。
やっぱり静かで勉強ははかどるのだが、
あの女性がまた同じように席を作っていたのが気になった。
前の晩もそうだったが、その日も深夜にぼくが帰宅とき、
彼女はまだ勉強を続けていた。
さらに次の日の昼、他の友人とその店に行くことなった。
これで3日連続だと笑っていた。
夜とは違ってにぎやかな店内だったが、ある一角だけ空いている。
例の女性が座っていたところ。
夜と同じように、その座席はテーブルで閉ざされていた。
女性はいなかったけど。
周りの席にも人はいなかった。
ぼくらもなんとなく、もっと混んでる方で食事した。
食べ終わってからしばらくおしゃべりして帰るとき、バイトの友人が出勤してきた。
挨拶のついでに2階の座席について聞いてみた。
318 :黒 ◆9fw1ZntG8Y :2006/08/12(土) 06:13:43 ID:yNwqTCvu0
占有席 3/3
「あれね。なんでだろ。あのままにしておけって先輩に言われてるし」
との答えだった。
「ず〜っと掃除もしてないから、ほこりがたまってて汚いんだけどね」
とも言われた。
慌ててもう一度2階の座席を見に行った。
テーブルにも座席にも、うっすらとほこりが溜まっていた。
指でなぞると白くほこりが付いた。
そして、テーブルには細かく何か文字が書いてあるのに気が付いた。
ざっと2〜3行読んだだけだが、乱れた文字で人生のつまらなさを書いてあるようだった。
そして「死にたい」と言う文字を見つけたとき、それ以上読むのをやめた。
知らなくていいことを知ってしまった気がした。
次に店に行って、あの女性がいたら、目が合ってしまうような気がした。
だから、その日から夜の勉強はやめた。
【完】
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