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第六十二話
登山者
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語り手:件 9jj1BYOi0
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220 :件 1/3:2006/08/12(土) 03:08:40 ID:9jj1BYOi0
「登山者」
これは、前の職場の取引先の方から聞いた話です。
多分、創作だと思います。
その人は、登山歴数十年の大ベテランです。
地元の県の山岳会の理事もしている、その筋ではちょっと有名な人らしいです。
その人から聞いた、ある山の怪談です。
もう十年ほど前のことですが、その人は山岳会の仲間と定例の登山旅行で、北海道の大雪山に登ったそうです。
名前は、仮に田中さんとしておきます。
登り始めたときは、快晴だったそうですが、変わりやすいのが山の天気。
途中で、大変なガス(登山家の間でいう霧のこと)に巻かれ、視界が聞かなくなり危険だったため、避難小屋で一泊することになったそうです。
普通の人なら慌ててしまうアクシデントですが、その時のメンバーは山のベテラン揃い。
こんなことは日常茶飯事で、平気な顔で用意していた食料と酒で宴会をしていたそうです。
221 :件 2/3:2006/08/12(土) 03:09:25 ID:9jj1BYOi0
そして宴会が終わりかけていた夜9時頃、避難小屋に一人の登山客が辿り着いたそうです。
まだ若い、学生ぐらいの男性で、メガネを掛けた内気そうな感じの若者だったそうです。
ですが、大変なことに、彼は足を負傷していたのです。
酔いの回った目で見てもかなりの重傷で、自力下山は無理だと判断した田中さんと仲間の方は
翌朝、天候の回復を待って救助を呼ぶことにし、用意の無線で連絡を取った上、朝を待つことになったそうです。
しかし、なぜかその若者は、助けを呼んでもらったことに感謝を示したのですが、何度聞いても自分の名前や連絡先を言わなかったそうです。
田中さんは、ベテランなので、なにか訳ありなんだろうと考え、特に追求はせずに世間話をしていたそうです。
その甲斐あってか、若者は名古屋から一人で着た事。小屋に辿り着くまで迷っていたことなどを話したそうです。
やがて、夜も遅くなったので、田中さんは明日の朝のことを考え、体力温存のために仲間と眠ることにしたそうです。
もちろん、若者にも寝て置くように薦めたのですが、若者は首を横に振り、一人ヘッドホンで
カセットを聴いていたそうです。
田中さんは、きっと怪我が痛むんだろうと思い、そのまま眠ったそうです。
翌朝、田中さんや仲間が起きたときには、若者は小屋にいませんでした。
怪我をしていたので、遠くにいけるはずはないのですが、緊急事態と判断した田中さんは仲間と慌てて近くを捜索したそうです。
しかし、若者は見つかりませんした。
222 :件 3/3:2006/08/12(土) 03:09:58 ID:9jj1BYOi0
そうこうするうちに、昨晩要請しておいた消防の救難隊が小屋に到着したそうです。
田中さんは仕方なく、救助隊の体調に今までの経過を話し、救難ヘリでの捜索を要請したそうです。
しかし、救援隊の隊長の対応は奇妙なものでした。
そのいなくなった若者の特徴を事細かに聞いてきたのです。
田中さんが、知っている限りのことを話すと、隊長はなぜか沈黙し、しばらくして隊員たちを呼び戻して捜索の中止を告げたそうです。
人命救助をなんだと思っているんだと景色ばんで隊長に詰め寄った田中さんに、隊長はある話をしたそうです。
十数年前、この山の湿原で倒木を組んだSOSの文字が発見され、捜索の結果、一人の若者の遺体が収容されたことがあったこと。
その若者の特徴や持ち物が、田中さんが昨晩会った若者と一致すること。
そして、数年に一度、そうした若者の救助要請が舞い込むことを。
その若者は今でも助けを求めて、あの山を彷徨っているのでしょうか・・・
【完】
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