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第六話
2時14分
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語り手:クリやん ◆aHHsHtXLnA
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21 :クリやん ◆aHHsHtXLnA :2006/08/11(金) 20:48:45 ID:TL+No2S00
第6話 『2時14分』
1/2
小学生の頃に祖父が亡くなり、祖母は広い家に一人きりとなった。
親族での話し合いの末、私たち家族が引越し、祖母と同居することに決まった。
そこは父親の実家で、驚くほど何もない、うんざりするような田舎だった。
田んぼと民家だらけで店はない、電灯が少なく夜は真っ暗闇。
祖母の家にも以前、女性が「助けてください!」と駆け込んできたことがあり、
通り魔によって人が亡くなった事件もあった。
ようするに、田舎といってものんびりした田舎ではなく、物騒な土地なのだ。
まだ子供であった私自身も、その土地には嫌なものを感じていた。
引っ越してまもなく、生まれてはじめての金縛りに遭遇した。
私たちの寝所は子供部屋ではなく、祖母の部屋の隣にある空き部屋だったが、
一緒に寝ている姉と弟にも、隣の部屋の祖母にも、私は何も言わずにいた。
それは3日に1度くらいの頻度で起こり、怯えて床につく日が続いた。
私は、横を向いてしか眠れなくなっていた。
仰向けで金縛りに遭うと、上に何かが乗ってくるのがわかるからだ。
1年が過ぎた頃、祖母が突然「子供達は別の部屋で寝るように」と言い出した。
その頃、祖母と母親の折り合いが悪くなっていた。そのためなのだろう。
私には優しい祖母であったが、両親と喧嘩をするときはまるで別人だったのを思い出す。
丁度姉が高校受験を控えていたため、これを機に子供達も各自部屋を与えられた。
今まで子供部屋だった場所は姉の個室となり、姉は一人、そこで眠る。
私と弟は、部屋に布団を仕舞う押入れがないという理由から仏間で眠ることになった。
22 :クリやん ◆aHHsHtXLnA :2006/08/11(金) 20:49:07 ID:TL+No2S00
2/2
その日を境に、金縛りは毎晩となった。
仏間をウロウロと歩き回り、時には添い寝までしてくる“それ”。
やってくるとまず、絨毯の下の畳がきしむ。まぎれもなく、人が歩く時の音であった。
私の背中にぴったりとくっつき、並んで寝ている“それ”の息遣いを後頭部に感じた。
間近に向かい合って寝ているときもあり、私は必死に目を閉じていた。
心の中で読経していたら、顔を殴られたような不思議な衝撃を受けたこともある。
夏になっても、全身に何かを被っていないと眠れなくなった。
すると時折、布団の端がふわりと持ち上がり、ぱたりと落ちることがあった。
すっと体が持ち上がるような、浮遊感を感じることもある。
精神の限界。
親に相談したが、寝所を移してはもらえなかった。
ただ、横で聞いていた姉が蒼ざめた顔で私に言った。
『それ、2時14分じゃない?』
仏間の隣の個室にいた姉も、怪現象に毎晩悩まされているのだという。
それは足首を掴んだり、首に手をかけたりするらしい。
掴まれた感触は、朝になっても生々しく残っている。
それが居なくなった後で時計を見ると、いつも2時14分を差していたのだそうだ。
母と祖母はますます険悪になり、私たち家族は2年足らずで家を出た。
祖母は10年後に他界するまで、あの家で暮らしていた。
たった一人、10年もあの場所で。
姉は言っていた。“それ”は姉の部屋を通り、仏間のほうへ行っていたと。
そして姉の部屋と仏間の延長上、そこには祖母の部屋があった。
【完】
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